トランスペアレントクラウドコンソーシアム (Tクラウド研究会) 設立趣意書
東京大学 情報理工学系研究科 教授
江崎 浩

1. 目的
 この数年、コンピューティングモデルは大きく変化しました。ネットワークの高速化、高品質化やコンピュータの処理能力の飛躍的な向上はアプリケーションのあり方を大きく変え、データの保存や処理をネット上で行うことも当たり前になりました。こうした技術変革は、コンピュータやスマートフォンだけではなく、あらゆる情報機器のデータ処理モデルを変えようとしています。
 2006年に、Eric Schmidt(当時, Google CEO)が提唱した「クラウドコンピューティング」という言葉は急速に市場に浸透、様々な場面で使われるようになりました。そのコンセプトの本質は、情報やアプリケーションがネットワークを介してグローバルな環境で適切に処理されること、であり、技術面では、データの「保存」や「処理」を行うのは、特定のサーバやOSではなく、ネットワークである、すなわち、ネットワークそのものがコンピューティング空間に見える、ことが変革の鍵であると言われています。
 スマートフォンやタブレットには、この技術革新の一端を身近に感じることができます。つまり、利用者からはアプリケーションが端末で動作しているように見えていながら、データの保存や処理を、インターネットを介してグローバルな環境で行う、といったことが当然のように行われています。まさに、ネットワークそのものが、データの保存や処理を行う時代になったといえます。
 近い将来、さらに多くの端末や情報機器、すなわち、デバイスが同様のコンピューティングモデルを応用することが容易に想像できます。スマートフォン主要OSの一つ、ANDROIDは、組み込み機器での利用に適しています。各種情報端末、カーナビ、CATVの次世代STB(Set Top Box)など、すでに、ANDROIDを採用する情報機器は多数あります。今後、ANDROID(もしくは類するOS)が、さらに多くのデバイスで動作し、M2Mとも呼ばれる市場につながることが、大きく期待されています。
 本研究会では、これらの「デバイス」が「クラウド」と連携することによる、コンピューティングモデルの変化と、その有機的なデータ処理による新しい価値や市場創出について考えます。すなわち、膨大な数のデバイスがネットを介してデータを保存/共有し、クラウド型の大規模なデータ処理によって新たな価値ある情報を生み出すことを、技術とビジネスの両面から研究します。そこでは、新たな市場を形成する3つの主要技術を、デバイスアプリケーション、プラットフォーム、及び、大規模データ処理(Big Data)として定義し、各領域での技術開発と事業性の検討を進め、次世代のデバイスセントリックな市場創出に寄与する事を目指します。

2. 技術領域
 本研究会では、デバイスとクラウドが連携することによる新しい市場を形成する主要3領域を、デバイスアプリケーション、大規模データ処理、及びプラットフォームとして定義し、各領域での技術開発と事業性の検討を行います。各領域でフォーカスするテーマ例は次の通りです。

デバイスアプリケーション:
 スマートフォン、タブレットはもちろん、情報を扱うすべての機器、センサーなどのデバイスを対象とし、情報の取得/加工/登録、一次処理、あるいはデバイスの制御を行うアプリケーションを想定しています。スマートフォン/タブレットを対象とするアプリケーションの他、M2M領域では、車の各種センサー情報、スマートビルディング、ヘルスケア、農業/水産業など、多くの市場での応用が期待されています。技術とビジネスの両面から、これらのアプリケーションの可能性を考え、実用化を推進します。

大規模データ処理:
 膨大な数のデバイスは、半永続的にネットに接続され、データを生成し続けることになります。大規模なコンピュータリソースを活用した並列分散処理によるデータ処理技術は、近年では、Big Dataと呼ばれ、膨大な量のデータへの意味付けや、一見すると無関係の、異なる多数のデータに関連性を見出し、価値ある「情報」を生み出すと言われています。データ処理技術、及び、データへの意味付けを行う統計/解析技術にフォーカスし、理論的なバックグラウンドを踏まえた技術開発、ビジネス検討を行います。

プラットフォーム:
 デバイスが取得するデータを保存、処理するためのアプリケーションプラットフォームです。2020年までに、ネットに接続されるデバイスの数は数千億、数兆になると言われています。時、場所を選ばず、あらゆる環境から接続される、グローバルなプラットフォームが必要です。膨大なコンピュータリソースでプラットフォームを構築する技術や、透過的なクラウド利用モデル、データを簡単かつ効率的に保存/処理するためのフレームワーク、オペレーションモデル、及び、ビジネスモデルについて考えます。

3. 活動概要
 本研究会では、プロジェクト制による技術開発と実証実験を活動主体とし、定期的に開催される全体会議でプロジェクトの進捗と成果の共有を図ります。プロジェクトはマーケット視点で発足し、スマートフォン/タブレット、スマートカー、スマートビルディング、スマートメータ、など、各領域で参加者を募り、技術開発、実証実験、フィージビリティスタディを計画、推進します。
 プロジェクトは、上記主要3領域に関わる事業者が何らかの形で参加します。各領域の連携モデルやその応用モデルを前提として、技術開発、ビジネスモデル検討を行います。
 なお、具体的なプロジェクトの計画、推進は、本研究会設立後に行うことを予定しています。

4. 会議、催事、等
総会:
年に1回開催し、本会の活動報告や重要事項の決定を行います。
全体会議:
半年に1回程度、活動報告及び情報共有を目的として開催します。研究会としての活動状況、各プロジェクトの進捗/成果の報告を行います。
ワークショップ:
年に1回程度、本研究会に関連して取り組んでいる技術開発や実用化/商用化に向けた活動等、より深く、詳細にわたる議論を行うため、合宿形式にて集中検討会を開催します。
プロジェクト会議:
プロジェクト毎に個別に開催するものとします。

5. 想定する参加者
 主要3領域である、デバイスアプリケーション、プラットフォーム、大規模データ処理の各領域、及び、関連技術/関連市場に関わる研究者、研究機関、企業の参加を歓迎いたします。
 本研究会は、デバイスとクラウドが連携する新しいモデルのアプリケーションを実用化し、新ビジネスの創出に寄与することを目的としています。参加者は本趣意書を熟読し、その趣旨に賛同するものとします。

6. 活動期間
 平成24年4月より活動を開始し、年度毎に活動計画を見直します。以降は、総会での決議を経て、必要と認められる場合には、活動を継続いたします。

趣意書pdf